「明和義人伝~モダンタイムズ~」第29回 : 和香さん

プロフィール

古町芸妓 和香さん
古町芸妓

新潟市江南区(旧亀田町)出身。高校生のときに参加した企業説明会で古町芸妓という職業を知り、卒業後に柳都振興株式会社へ入社。20115月に古町芸妓としてお披露目を迎え、20265月で16年目を迎える。2021年には日本舞踊・市山流の名取となり、市山七十和可の名を授かる。

小学生の頃から樽太鼓など地元の伝統行事に親しみ、高校2年生のときに古町芸妓という職業と出会った和香さん。古町芸妓となって16年目を迎え、後輩育成にも関わりながら、稽古を重ねる日々を送っています。
今回は2025年の明和義人祭でお雪役を務めた和香さんに、明和義人祭の思い出や古町芸妓として歩んできた道のり、花柳界への思いや今後の展望について伺いました。

一体感と温かい交流に包まれた「明和義人祭」

2025年の「明和義人祭」では、お雪役を務めました。

 

和香:
お雪役を務めさせていただくのは、留袖になって1年目に続いて、今回が2回目でした。1回目のときは、私が雨女だったせいか大雨に見舞われまして(笑)。今回もまた雨になるかと思っていたら、カラッと晴れてくれて良かったです。

 

お祭り当日はいかがでしたか。

 

和香:
子ども向けのイベントが中止になるほどの暑い一日でした。それでも、日陰で小さなお子さんが見に来てくれたりと、にぎわいを感じることができました。観覧されている皆さんが本当に温かくて「倒れないでね」と気にかけてくださって、麦茶をいただいたりもしました。今回は周りの皆さんと一つになって、楽しくお祭りを作り上げることができたと感じています。

 

お祭りで印象に残っていることはありますか。

 

和香:
今年は涌井藤四郎役の稲葉さん、佐次兵衛役の高山さんと三役を務めさせていただきましたが、3人でお菓子を食べたり、飲み物を飲んだりしながら、お座敷にいるような感覚でリラックスして臨むことができました。神菓まきでは、幅広い年代の方が集まってくださっていたのがうれしかったです。

 

お雪役を演じるにあたって、意識したことはありますか。

 

和香:
歴代のお雪役の皆さんは紫など濃い色を着ることが多かった中で、あえて白の着物を選んでみました。名前の「雪」にもかけて、白で凛とした雰囲気を出したいと思いまして。
帯もいつものお太鼓ではなく、丸みを帯びた「おたらい」という結び方にしてもらいました。舞台や特別な踊りのときにする結び方で、めったにしないものなのですが、着付けをしてくださった方が「いつもと変えてみよう」と結んでくれて、特別感を出してみました。

和の文化に触れた幼少期の経験から、芸の道へ

和香さんが古町芸妓を目指したきっかけを教えてください。

 

和香:
小さい頃から、母方の祖母が着物を縫うのが好きな人で、よく着せてもらっていたことが原点かもしれません。また、地元は新潟市の亀田ですが、「かめだ祭り」のときに小学校で樽太鼓や亀田甚句といった伝統行事に取り組む授業があったことも大きいですね。歌や笛、樽など全部担当してみて「リズム感がいいね」と先生に褒めてもらったことも、印象に残っています。ただ、兄弟姉妹が7人いて、なかなか習い事ができる環境ではなかったので、中学・高校では吹奏楽部に入っていました。
古町芸妓という職業を知ったのは、高校2年生のときの企業説明会です。会場で柳都振興の振袖の方が、白塗りの着物姿でいらしたのを見て、心をつかまれました。「芸事ができる仕事があるんだ」と知って、この世界に飛び込みました。

 

ご家族や周りの反応はいかがでしたか。

 

和香:
母も高校の担任の先生も「あなたがこういう仕事をやると思わなかった」と驚いていました(笑)。学校ではあまり目立つタイプではなかったので、自分の心の中に秘めていたものがあったのかもしれません。

 

実際に古町芸妓の世界に入ってみて、いかがでしたか。

 

和香:
東日本大震災があった2011年が入社した年で、お座敷の数も随分少なくなりました。空いた時間を活用してお稽古を重ね、先輩方の踊りを収めたDVDやビデオを何度も見直したり、本を読んだりしました。先輩方からも一緒にお稽古をしていただいたり、芸を磨く貴重な時間だったと、今になって感じています。
また、お座敷を経験する機会が増えるにつれ、お客様へのお酌の仕方や、こういう時はこう動かなければならないといったお座敷の基礎をお姐さん方から丁寧に教えていただきました。お姐さん方から教えていただいた事を今度は私が後輩にしっかりと伝えていきたいと思います。

自身の強みを磨いた15年間と、新たに感じる後輩育成の喜び

古町芸妓として活躍されて15年になります。ご自身の中で大切にしてきたことは。

 

和香:
もともと、話が上手な方ではなく、お酒もそんなに飲める方ではなかったので、お姐さんから「それなら気配りができるようになりなさい」と言われて、お水やお酒が足りないかと、お座敷の中で動き回っていました。あちこち動き回っているので、お姐さん方から「和香は忍者」と言われたほどです(笑)。お客様にも「あの子が一番よく動く子だから呼んだよ」と言っていただけることがあってうれしかったですね。
私としては、芸妓自身が目立つというよりは、お座敷の中でお客様が気持ちよく過ごせるような潤滑油でありたいと思っています。見えないところで動いて、結果として場が和やかになっている、そんな黒子のような存在を心がけています。

 

ご自身や周りの変化で感じていることは。

 

和香:
今は古町芸妓全体では16名(20265月で計18名)で、5月にもう2人がお披露目を迎えました。気付けば、私は柳都振興の中で一番上の立場になりました。振袖の頃はお客様にどうしたら気持ちよく過ごしていただけるかを考えることに一生懸命でしたが、今はどう後輩を育てていくかも自分の中での課題です。
明るく社交的な子もいれば、シャイな子もいます。その子がどうしたら目立てるか、どうしたらこの子の持ち場を作れるか、そこまで考えています。だからこそ、後輩の活躍を聞くと、自分のことのようにうれしくなります。

 

2021年5月には、市山流の名取となり、市山七十和可の名も授かりました。

 

和香:
私より先に入った姐さん方が4人で名取をいただいていたので、いつかは私もお名前をいただけるようになりたいと思っていました。お師匠さん(七代目 市山七十郎さん)から同期の子と一緒に取らないかとお話をいただいた当初は「欲しいけれど、今の自分の状態では名取にふさわしくないのではないか」と一度お断りしたんです。ですが、実際に名取になってから「芸の道に終わりはない。名取になって終わりじゃないのだから」とお師匠さんから言っていただいて、これからもっと精進していきたいと思うようになりました。

古町芸妓の魅力を次の世代へ伝えていくために

ここ10年でSNSが普及するなど、花柳界も大きく変化してきていますね。

 

和香:
昔から大切にしてきた部分は残しつつ、時代に合わせて変えていくことは、今の時代に必要なことだと思います。「私たちの時代はこうだったから」と押し付けるのではなく、「こういうものもあったけれど、こうした方が今の時代には合っているよね」という考え方を意識しています。そうすることで、後輩たちもいろいろな意見を出してくれます。先輩方が守り続けてきたものを大切にしながら、後輩たちの大事な意見にも耳を傾けるというスタイルです。
ただ、古町芸妓の芯となる“品”に関しては、絶対に崩してはなりません。古町芸妓といったら芸ができて、品がある……その定義の中で各々の芸妓が自分の個性を出していくことが大事だと私は考えています。やり方も考え方も十人十色ですが、古町芸妓の伝統や歴史を大切に、これからも受け継いでいくという思いは皆一緒ですから、古町芸妓の結束力は強いですね。

 

地域への貢献や、これからの展望についてはどうお考えですか。

 

和香:
新潟のお客様が「古町芸妓は新潟の文化だから」と宣伝してくださっているのが心強いですね。その言葉通りに、私たちもさまざまな場所や機会で、古町花街はもちろん新潟の魅力や歴史を発信していくお手伝いができたらと考えています。
昨年は新潟南高校の生徒さんが、古町芸妓と街づくりについて熱心に調べてくださって、学校にお邪魔させてもらう機会がありました。私が振袖の頃は学校などに伺うと「なんで芸妓が学校に来ているの?」と不思議そうな反応が多かったのですが、今は「来てくれたんだ!」というウェルカムな雰囲気が増えているのがありがたいですね。これも、お姐さん方が古町芸妓の伝統を守り続けてくださったからこそ。新潟という地域の次の世代にしっかりとつなげていくのが、私たちの役目です。

 

古町芸妓のイメージについて、今後どうあってほしいと思いますか。

 

和香:
ありがたいことに、アイドルのように扱ってくださる方もいるのですが、私たちは皆さんに芸事を見てもらうために日々お稽古をしていますので、ぜひ芸の方も楽しんでもらえるとうれしいですね。新潟に関する演目もありますので、こういう世界もあるのだと知っていただける機会になると思います。
また、お座敷というと高級料亭で行われるものというイメージが強いかもしれませんが、実は古町芸妓を呼べる料理屋さんは古町に10数軒あります。二次会で使えるお店、一人でふらっと入れるお店もありますので、ぜひ気軽にお料理と共にお座敷も楽しんでいただきたいです。

 

ありがとうございました。最後に明和義人祭へのメッセージをお願いします。

 

和香:
年配の方から小さなお子さんまで、いろいろな世代が楽しめるお祭りです。また、私たち古町芸妓にとっても、いろいろな方と関われる機会ですので、これからもお祭りを絶やすことなく続けていけることを願っています。

 

「明和義人伝~モダンタイムズ~」とは

明和義人に準え、現代で『勇気をもって行動し、自らの手で未来を切り開こうとしている人』にスポットをあて、今までになかったものを始めようと思った原動力や、きっかけ、そして具体的な活動内容を紹介します。新しいことを始めようとしている方の一助となれれば幸いです。