「明和義人伝~モダンタイムズ~」第28回 : 田村 寛さん

プロフィール

田村寛さん
株式会社テラスオフィス 代表取締役社長/大衆割烹 大佐渡たむら 二代目店主

1971年新潟市中央区沼垂生まれ。大学卒業後、東京で5年間過ごし、1993年に家業の料亭「大衆割烹 大佐渡たむら」を継ぐために帰郷。2010年にルルックキッチンを開業、20143月に実姉の高岡はつえさんと共に株式会社テラスオフィスを設立し、2015年に沼垂テラス商店街をオープン。以来、地域のにぎわい創出と移住・定住促進に取り組んでいる。

新潟市中央区沼垂地区にあり、新潟を代表する観光スポットになりつつある「沼垂テラス商店街」。2025年に開業10周年を迎え、年々沼垂の街はにぎわいが増しています。かつてシャッター街だった旧沼垂市場通りを、個性的な店舗が軒を連ねる人気スポットに変貌させたのが、商店街の運営を手がける田村寛さん。地域経済の厳しさを肌で感じながらも「スピード感」と「継続」を重視した取り組みで、地域に新たな活力をもたらし続けています。田村さんによる沼垂商店街再生までの軌跡、行動や挑戦への思いを伺いました。

地域ににぎわいを生んだ商店街の10年

沼垂テラス商店街が今年で開業10周年を迎えました。

 

田村:
沼垂テラス商店街の活動は、2014年に旧沼垂市場通りの長屋を活用したことからスタートし、20154月に正式なオープンを迎えました。現在は長屋23店舗と商店街近隣のサテライト8店舗という規模になっています。街の様子もずいぶん変わりました。私が東京から帰ってきた当初はシャッター街でしたが、今では県内外から観光客の方々にも来ていただいていて、ありがたく思っています。

 

10年間の中での商店街の大きな変化はありましたか。

 

田村:
印象的なのは、店舗の循環です。当初から入居していたお店が巣立っていって、新しいお店が入ってくる。私はその方がいいと思っているんです。ここは間口も狭いし奥行きもないので、手狭になって出ていくのはお店として理想的なことでもあると思います。それがまた新潟市内の別の場所でお店を構えて商売を続けていくという、いい循環になっています。
地域への波及効果も出ていて、近隣の沼垂小学校の児童数も微増傾向にあるようです。少しずつでも、地域に子どもが増えることは嬉しいことですよね。

家業の立て直しから、街全体の見直しへ

田村さんは沼垂で生まれ育ち、現在は家業の「大佐渡たむら」で店主兼料理人を務めながら、沼垂テラス商店街運営も手がけていらっしゃいます。まず、これまでの経歴についてもお聞かせください。

 

田村:
私は1971年生まれで、いわゆる氷河期世代なんです。バブル世代の恩恵も受けつつ、崩壊後の厳しさも経験した世代といえるかもしれません。大学時代は東京で5年間過ごし、卒業後も1年ほど東京にいましたが、父親から「いつまでも東京にいないで帰ってこい」と言われて、1993年に帰郷することになりました。
当時の沼垂は非常に厳しい状況にありました。大企業の工場が次々と閉鎖され、地域全体の活力が失われていました。家業の大衆割烹も企業の宴会が売上の中心でしたが、バブル崩壊で宴会需要が激減し、商売の方向転換が急務となっていました。
ですが、この時に意外にも東京での経験が役立ちました。学生時代は勉強もしないで、遊んでばかりいまして(笑)。飲食店を回ることが好きで、さまざまな店で人と交流していた経験や聞いてきた話をもとに、店舗改修を行い、企業宴会中心から個人のお客様へとシフトを図りました。

 

ご両親はどのような反応されましたか?

 

田村:
働いた経験のない私を信頼し、やりたいようにやらせてくれましたね。資金面でもサポートしてくれましたし、失敗しても温かく見守ってくれました。その点においても、両親には本当に感謝しています。
店舗の改修で少しずつお客様の層が変化し、成果が目に見えてわかるようになると、両親も手応えを感じてくれたようです。

 

家業を継がれてから商店街構想まで、どのような取り組みをされていたのでしょうか。

 

田村:
「大佐渡たむら」を切り盛りしながら、1995年頃から地域活動にも参加するようになりました。常連のお客様に誘われて「地域を考える有志の会」に参加したり、「発酵と醸造のまち 沼垂」の活動に協力する中で、地域全体が活性化しなければ自分の店も安定しないということを実感しました。
NPOやボランティア組織での活動を続ける中で、一つの課題に直面しました。何かを実行しようとすると合意形成に時間がかかりすぎるのです。責任の所在や意思決定者が曖昧なため、事業が頓挫することが多々あったんです。
例えば、1年で実現すれば成功する事業でも、合意形成に1年半かかってしまえば、タイミングを逃してしまいます。それなら自分で責任を負い、失敗した場合の損失も自分で背負う方が効率的だと判断し、まずは家業の料理を活かした手作り惣菜のお店「ルルックキッチン」を、旧沼垂市場通りの長屋に開業しました。

同じ熱意を持った仲間たちと創り上げた商店街

2010年の「ルルックキッチン」のオープンの成功が次の展開につながったのですね。

 

田村:
きっかけにはなりました。それからは一店舗だけでは面白みに欠けるため、商店街の再生に協力してくれる人を探すべく、さまざまな場所で情報発信しました。妻や友人にも積極的に話をしていたところ、妻を通じて知り合ったのが、以前、沼垂テラス商店街で家具とコーヒーのお店「ISANA」を営んでいた中川さんでした。中川さんご夫妻は大阪からわざわざ車で見学に来られて「田村さん、私たち、ここで開業したいと思います」と言ってくださって。その翌年には陶芸工房「青人窯(あおとがま)」が加わり、3店舗がそろったのでイベントを開催しようということになったんです。そのイベントには予想以上に多くの方にお越しいただき、金魚すくいを担当してくれた方、歌声喫茶のためにピアノを持参してくれた方など、地域の皆さんも積極的に協力してくださったんです。
2014年には旧沼垂市場通りの長屋を取得し、沼垂テラス商店街として本格的にスタートしました。大きな決断でしたが、3店舗でのイベントの手応えもあり、何より「自分で責任を負える」範囲での事業展開を心がけた最初の一歩になりました。

 

商店街の運営で大切にされてきたことはありますか。

 

田村:
入居審査は厳格に行っています。最も重視するのは「事業への熱意」です。店舗を開業すること自体は誰でも可能です。事業計画書を作成し、銀行などから融資を受ければ、ある程度どこでも実現できます。しかし、10年、20年継続していくことは非常に困難なのが現実です。
初めて商売を始める方には、まず銀行や市の商工会議所、補助金の窓口に相談していただきます。そこで厳しい現実を突きつけられるわけですが、それでも諦めずに取り組む意志があるかどうかが重要な判断基準となります。
また、管理者という立場ではありますが、上から物を言うことは避けています。同じ目線で考え、コミュニケーションを取ること、意見の衝突があっても頭ごなしに否定せず、長期的な信頼関係の構築を重視しています。
退去された方々との関係も良好に続いています。10周年記念の際は、別の場所に移られた方々も一緒にお祝いのイベントに参加してくれました。皆さん、比較的近隣に新店舗を構えられていて、個人的にも親交を深めさせてもらっています。

子どもたちが誇れる地域づくりを目指して

沼垂テラス商店街の10年は目まぐるしくも、発見や挑戦の連続だったと思います。沼垂テラス商店街の今後の展望についてはどのように考えていらっしゃいますか。

 

田村:
年間1店舗のサテライト開設を目標としています。店舗展開だけでなく、空き家を改修して新たな住民を迎え入れることにも取り組みたいのですが、これには多くの課題があります。
現代の生活スタイルに空き家が適合しないという問題があります。夫婦で軽自動車と普通自動車の2台を所有するのが一般的ですが、市街地の空き家には駐車スペースが不足しています。さらに相続の問題も複雑に絡んできます。簡単に解決できる問題ではありませんが、不動産会社と連携しながら取り組んでいきたいですね。

 

田村さんが0から1を生み出すために大切にしていることは。

 

田村:
最も重要なのは「一歩踏み出す勇気」です。私の場合は両親や姉妹、家族のサポートがあったから踏み出せましたが、多くの人が思っているより支援体制は存在するものです。外部に発信すれば「協力しましょう」と言ってくれる人がきっと現れます。発信しなければ誰も手を挙げませんが、声に出してみると意外に協力者が見つかります。
もう一つは「継続すること」です。何かを始めることは誰でもできますが、それを何年も継続していくことは始めること以上に難しいものです。細部にこだわりすぎないことも重要ですね。結果が良ければ、過程での困難は自然と忘れられるものです(笑)。

 

沼垂という地域への想いもお聞かせください。

 

田村:
子どもを持つ親として最も大切にしているのが、地域の子どもたちが「自分の住む場所は良いところだ、楽しいところだ」と感じられる地域づくりです。自分自身が住んで楽しいと思える地域を作ることから始まり、それを子どもたちにも実感してもらいたいと思います。それが地域の持続的な発展につながると確信しています。

 

素敵なお話をありがとうございました!
最後に、明和義人祭へのメッセージをお願いします。

 

田村:
今の時代もなかなか大変ですが、明和義人の歴史のような偉大な先人にならって、時代を切り開いていきたいと、お祭りを通して感じてくれる人が増えると嬉しいですよね。明和義人祭という一つの情報発信の場が、行動や挑戦のきっかけを作ってくれることを期待しています。

「明和義人伝~モダンタイムズ~」とは

明和義人に準え、現代で『勇気をもって行動し、自らの手で未来を切り開こうとしている人』にスポットをあて、今までになかったものを始めようと思った原動力や、きっかけ、そして具体的な活動内容を紹介します。新しいことを始めようとしている方の一助となれれば幸いです。