「明和義人伝~モダンタイムズ~」第22回 : 結衣さん

プロフィール

結衣さん
古町芸妓

長岡市栃尾出身。小学生の頃から日本舞踊を学び、三味線や鼓などに興味を持つ。高校卒業と同時に(株)柳都振興に入社。古町芸妓として12年勤め上げ、20245月に一本立ちをして独立し、置屋名を「梅本」として新たな一歩を踏み出した。2024年の「明和義人祭」でお雪役を務めた。

古町芸妓として12年の経験を積み、2024年5月に独立を果たした結衣さん。小学生の頃から日本舞踊を学び、三味線や鼓などの伝統芸能に魅せられて、古町芸妓の道を選びました。長年の修練で培った技と心で、お客様との心温まる交流を大切にしながら、新潟の伝統文化を次世代へと繋いでいます。
古町芸妓として日々の稽古を大切にしながら、伝統を守りつつ新しい挑戦を続ける結衣さんは、2024年の「明和義人祭」でお雪役を務めました。今回は、明和義人祭での思い出や、芸妓としての思いと活動についてお聞きします。

歴史と祭りの意義を改めて学んだ「明和義人祭」

2024年8月に開催された「明和義人祭」で、お雪役を務めました。
お祭り当日の印象は。

 

結衣:
明和義人祭当日は天候に恵まれましたが、とても暑い一日でした。そのような中でも、多くの方々にご来場いただき、祭りの活気を肌で感じることができました。
特に印象深かったのは「御霊(みたま)おこし」ですね。厳かな雰囲気で、暑さを忘れるほど、気持ちが引き締まる思いがしました。明和義人祭には、古町芸妓として踊りと練り歩きに参加させていただいていましたが、今回、お雪役を務めたことで、昼間の祭りの様子を拝見できて新鮮でしたね。古町通りの練り歩きの際には大勢の方が集まってこられて、また違った雰囲気を感じることができました。

 

今年は「古町演芸場」で、明和義人のお芝居もありましたね。

 

結衣:
お芝居は今年が初めてだったそうで、私自身も初めて古町演芸場に入らせていただきました。お客様で満席の中、明和義人の物語をしっかりと知ることが、改めて明和義人について勉強できた貴重な機会になりましたね。
また、「神菓(しんか)まき」では、小さなお子さんからご年配の方まで、多くの方々と直接触れ合うことができ、街の皆さんがお祭りを楽しんでいる様子が伝わってきました。

 

お雪を演じてみての感想、お雪の言動で印象に残っていることはありますか。

 

結衣:
お雪さんはなんと言っても、はっきりと自分の気持ちを伝えられる強さを持った女性ですね。私自身はどちらかというと流れに任せるタイプで、思っていることをストレートに言えないこともあるのですが(笑)、お雪さんには私にはない芯の強さがあると。常に自分の信念を持ち続ける気持ちの強さも感じましたし、そういった女性には憧れますね。お雪さんの生き方に触れることで、自分自身の在り方についても深く考えさせられる機会になったと感じます。

お客様との交流で、共に“場”を創る喜び

結衣さんが古町芸妓を目指したきっかけは。

 

結衣:
このお仕事を目指した一番の理由は、さまざまなお稽古ごとを仕事として続けられることでした。私はもともと、小学生の頃から6年間ほど日本舞踊を習っていたのですが、その時から三味線や鼓などの楽器にも興味があったんです。日本舞踊を習っていた時は楽器に触れることはできなかったのですが、高校時代に就職先を探していた中で、芸妓という仕事を知り、三味線や鼓といった楽器を扱い、芸事を学べる仕事と知ったのが、古町芸妓になったきっかけでした。
例えば、鼓一つにしてもポンポンという音がどのように出るのか、実際にやってみると皮の端と真ん中では音が違うことなど、実践を通して学べることに魅力を感じましたね。

 

実際に古町芸妓として働いてみての実感は。

 

結衣:
お座敷でのお客様との交流が思っていた以上に多いことですね。本来であれば、私たち古町芸妓は踊りや唄でおもてなしをしますが、時にはお客様が小唄など短い曲を歌ってくださり、お客様も一緒に踊って手拍子を取りながら唄うこともありました。お客様と一緒に場を作り上げていく、そんな貴重な体験を何度も楽しませていただきました。
古町芸妓は格式高いというイメージがあるかもしれませんが、こういった和やかな雰囲気もとっても大切にしています。古町芸妓として働く前には想像もしていなかった、多彩な芸の世界を知ることができて、うれしく思います。

 

結衣さんが惹かれた芸事の点ではいかがでしょうか。

 

結衣:
私が入門した12年前は1213人ものお姐様方がいらっしゃって、皆さんが奏でる鳴り物や歌から芸の巧さをたくさん学ばせていただきました。お姐様方の長年の経験に裏打ちされた芸の素晴らしさを間近で感じてきての今があります。まだまだ学ばなければいけないことだらけですが、私も踊りだけでなく楽器や鳴り物でも魅せることのできる芸妓を引き続き目指していきたいものです。
新潟は新橋、祇園と並ぶ三大花街として知られ、古くから芸事が盛んな土地柄です。イベントや共通のお客様を通じて金沢など他県の芸妓さんとの交流もあり、お互いの踊りを見学に行ったり、時にはイベントで一緒にお仕事をさせていただくこともありますね。近年は芸妓の数が少なくなってきていることもあり、それぞれの土地の花街の文化を代表する者同士として、お互いに支え合い、高め合う関係を大切にしています。

芸妓一人ひとりの発信が、新潟の魅力を広げる

2024年5月に独立されました。

 

結衣:
柳都振興に入社し、12年が経ったこともあり、これまでとは異なる責任と覚悟を持って仕事に取り組んでいきたいとの思いで一本立ちを決めました。私のように新潟市外出身で、コロナ禍も経験した世代も、独立して古町芸妓として働いていけるという一つの例になればと考えています。
独立後は、お稽古は変わらず続けていますが、確定申告やスケジュール管理など、自分で取り組まなければならないことが増えて……大変です(笑)。ただ、柳都振興には現在も着付けや着物を貸していただき、安心してお仕事に取り組むことができています。

 

結衣さんが古町芸妓となった頃に比べて、古町芸妓や花柳界は変化しましたか。

 

結衣:
今は古町芸妓の一人ひとりが、自身の目線を通して、新潟の魅力を発信する機会が格段に増えたのではないでしょうか。芸妓それぞれに異なる発信方法があり、お座敷に来ていただくお客様の層も確実に広がりを見せています。SNSをご覧になって、海外から来られるお客様も増えていますね。各々の形で古町芸妓の文化を伝えて、新潟そのものに関心や興味を持っていただけるのは理想的な形だと感じます。

 

古町芸妓の一人として伝統を守りながら、挑戦も続けているのですね。

 

結衣:
自分なりのやり方で古町芸妓という文化を伝えていくためには、古町芸妓として守るべきものはしっかりと守りながら、新しい挑戦をしていかなければなりません。そのためには、10年という下積みの期間は必要だと改めて感じています。
私自身、一本立ちをして実感しましたが、独立や起業はまさに挑戦です。下の世代にはどんどん挑戦していってほしいと思う反面、下積みも大切にしてほしいですね。たくさん経験や実践、学びが芸事や自分自身の挑戦への自信にもなると思います。

芸を極め続けることが挑戦に

結衣さんが古町芸妓として大切にしていることは。

 

結衣:
常に感謝の気持ちを持って人と接することです。この仕事をしていると、時にもてはやされることもありますが、決しておごることなく、謙虚な気持ちでいられるよう心がけています。また、自然体でいることも大切にしていますね。ハードルが高そうなイメージを作るのではなく、心からのおもてなしができるよう、一つ一つの所作や言葉を大切にしています。

 

目指している古町芸妓像はありますか。

 

結衣:
特別なことを追い求めるのではなく、日々の積み重ねを大切にする芸妓でしょうか。例えば、私が尊敬するお姐様方が奏でる三味線の音一つ、唄の声の出し方一つにも、長年の経験に裏打ちされた深い味わいがあります。それは一朝一夕には身に付かないものですが、毎日の稽古を通じて、少しずつでも深みのある表現ができるようになりたいと思っています。
特に、踊りは曲によってさまざまな表現が必要です。時には重たい片想いの気持ちを表現することもあれば気持ちを発散させるような踊りもあり、その場面に合わせた表現力を磨いていきたいですね。

 

古町芸妓の仕事を続ける上で心がけていることは。

 

結衣:
夜遅いお座敷も多く、生活リズムは一般的な方々とは異なると思います。さらに、踊りや唄では体を使いますので、できるだけ睡眠時間を確保し、しっかりと食事を取ることを心がけています。ただ、あまり神経質になりすぎると逆効果なので、ストレスを溜めないことも大切ですね。心と体の健康があってこそ、お客様にとっての最高のおもてなしにつながると考えています。

 

ありがとうございました。
最後に明和義人祭へのメッセージをお願いいたします。

 

結衣:
明和義人祭が今後も古町の歴史と文化を伝える大切な祭りとして続いていくことを願っています。特に今年初となる演芸場でのお芝居は、明和義人の物語を分かりやすく多くの方々に伝えることができる素晴らしい機会でした。伝統を守りながらも、時代に合わせて柔軟に変化していく祭りとして、古町の新しい文化を築いていってほしいと思います。私たち芸妓も、この明和義人祭を通じて古町の魅力を多くの方々に伝えていきたいですね。

「明和義人伝~モダンタイムズ~」とは

明和義人に準え、現代で『勇気をもって行動し、自らの手で未来を切り開こうとしている人』にスポットをあて、今までになかったものを始めようと思った原動力や、きっかけ、そして具体的な活動内容を紹介します。新しいことを始めようとしている方の一助となれれば幸いです。