「明和義人伝~モダンタイムズ~」第16回 : 栗林礼奈さん

プロフィール

栗林礼奈さん
マスヤ味方店 店長

1991年生まれ、新潟市南区味方出身。立命館大学を卒業後、東京で求人・人材紹介サービスやデータベース、ソフトウェア関連の業務を経験。2020年に新潟にUターンし、2021年から家業である「マスヤ味方店」の店長を務める。大学・社会人時代に培ったネットワークで全国各地からおいしいものを仕入れ、InstagramなどSNSで積極的に発信。新潟市内外から買い物客が訪れる、超人気スーパーへと育て上げた。

普段何気なく買い物に出かけるスーパーは、私たちの生活になくてはならない存在です。
多くの大手スーパーが競い合う新潟で、店独自の目線や発信に力を入れて、他店との差別化を図っていると最近注目を集めているのが「ローカルスーパー」と呼ばれる、中小規模のスーパー。その中でもひときわ存在感を放っているのが、新潟市南区味方にある「マスヤ味方店」の店長・栗林礼奈さんです。
「マスヤ味方店」は必要なものを買うだけの場所ではなく、ものを買うこと・食べること、さらには店に訪ねることが楽しくなるようなアイデアや仕掛けが満載。その立役者である栗林さんに、こだわりの商品や経営にかける思い、今後の展望についてもお聞きしました。

街の小さなスーパーから、個性が光る唯一無二のスーパーへ

「マスヤ味方店」は、お店の中を見て回るのが楽しいですね!

 

栗林:
よく「物産展みたい」と表現していただきますね。基本は街のスーパーですから、地域の方々の暮らしに欠かせない野菜や魚、肉などの生鮮やお菓子、調味料、お惣菜、日用品などは、しっかりとそろえています。その上で、全国各地から仕入れた珍しい商品を展開してます。

 

「マスヤ味方店」はいつ創業したのでしょうか。

 

栗林:
73年前に曾祖父が始めたお店です。数年前までは私の父が店長を務めていました。家がスーパーだったから、小さい頃から両親が働き詰めで、家族の休みなんて滅多になかったですね。私は高校卒業後に京都の大学に進学して、卒業後は東京の企業数社で働いていました。「私はキャリアウーマンになるんだ!」と都会でのキラキラとした生活を楽しもうと意気込んでいましたので、「マスヤは絶対に継がない!」と思っていました(笑)。

 

その気持ちから一変、現在は店長を務めていらっしゃいます。新潟にUターンされるまでの経緯は。

 

栗林:
東京では求人・人材紹介サービスを行う企業、IT企業で働いていました。けれど、私が思っていたキラキラした生活とは程遠く、成長や稼ぎ、ワークライフバランスに魅力を見出しても、私としては仕事そのものに面白みを感じることができませんでした。「お金を稼ぐだけじゃ幸せになれないんだな」と悟りました(笑)。それだったら、本当に自分が好きなことを探してみようと思い大学時代に諦めていた留学という夢をもう一度叶えようと、オーストラリアのワーキングホリデーに行く準備をしていたんですが、新型コロナウイルスの流行で海外渡航もNGになって、地元新潟に戻ってきたんです。少し休む時間と捉えながら、マスヤの仕事を手伝っていたりしたんですが…これがですね、めちゃくちゃ楽しかったんです!

自分の強みであるアイデア力と行動力を店づくりに活かす

「絶対に継がない!」から、まさかの「めちゃくちゃ楽しい!」仕事だったと(笑)。
どういった点でそう感じましたか?

 

栗林:
私はもともと、斬新なことや新しいことを考えることが好きというか、自分の得意とすることだと思っていたのですが、その部分をスーパーで商品を展開することに活かせたんです。スーパーって生活に身近なものだからこそ、自分もお客様になり得ますよね。例えば、こういうものがあったらいいなとか、こんなものだったら食べてみたいとか、お客様の気持ちや立場というのがイメージしやすかったんです。だから、スーパーの経営に関しては素人でしたけど、前職で嫌というほど学んだ営業の経験を生かして、「どうやったらものが売れるか」ということを考えていきました。あと、「食べることが大好き」という私の強みも活かせるんじゃないかと(笑)。

 

まずはどんなことから始めていったのでしょうか。

 

栗林:
正直、その当時は経営状態が良くありませんでした。店長だった父に「この状態を脱却するためにもとにかくやれることは何でもやってみよう」と持ちかけました。それで父に「県内で同じくらいの規模で成功しているスーパーはないのか」と聞いてみたら、五泉市の「エスマート」さんがそうだと。昔から両親もエスマートさんと交流があったそうで、すぐに連絡を取って鈴木社長に会いに、お店にお邪魔させていただいたんです。エスマートさんは五泉市の外れにある小さなスーパーなのですが、鈴木社長やスタッフの皆さんが全国から選りすぐった商品を置いているんです。エスマートに行けば必ずおいしいものに出合える、そんな存在だから五泉市内外からお客様がたくさんいらっしゃっています。それで鈴木社長にお会いしてびっくりしたんですけど…その業界の一流の方って、物事を分け隔てなく教えてくださるんだなぁと。感銘をうけました(笑)。鈴木社長は「うちも似たような状況だったから、気持ち分かるよ」と、苦労して積み上げてこられたきノウハウや仕入れ先の情報も、惜しみなく教えてくださったんです。

 

全国のおいしいものを扱うようになったのは、その出会いがきっかけだったのですね。

 

栗林:
そうなんです。私がその時にエスマートさんで購入した商品の中でも、「食べるオリーブオイル」というフライドガーリックが入ったオリーブオイルの調味料が気に入り、鈴木社長に販売元を紹介してもらいました。それをうちの店で前から取り扱っていた長岡市「星長」さんの「おぼろ豆腐」と一緒に食べてみたら、びっくりするほどおいしくて!商品を単体で売るのはもちろん、「食べるオリーブオイル」と「おぼろ豆腐」の組み合わせで売ってみるのもいいかもしれないと。鈴木社長からは「数を売るためには、まず商品をたくさん積んで、目立たせなきゃお客さんの目は引かないからね」と教えていただいていたので、「食べるオリーブオイル」は初めて置くにもかかわらず200個仕入れました。陳列はもちろん、POPやチラシにも商品へのアツい思いをしたためて、レジを打ちながら「これ、おいしいですよ!」と宣伝したりと、とにかく気合いを入れて売ったら、120個、30個と売れたんです!

 

栗林さんの商品への熱意が、お客様に伝わったのですね。

 

栗林:
そうだと思います。同様に「自分がおいしい!」と思うものを発信することに力を入れていきました。私は東京と関西に拠点があったので、全国各地に友人がいるんです。その友人たちに、うちのスーパーに置いている新潟のおいしいものを送るから、出身地でおいしい名物を教えてとお願いしたり、その話からお取り寄せをしてみて仕入れをお願いしたりと、いわゆる物々交換のようなイメージですね。そうやって新潟には絶対に売っていないと言い切れる、各地のおいしいものを集めていきました。友人たちからの情報もお店づくりにも活かされているんです。

売り手の熱意が、買い手の購買意欲に直結

インスタグラムなどのSNS、手書きのチラシでも商品について発信されていますね。

 

栗林:
この二つをなくして、お店のPRは考えられません(笑)。特にインスタグラムは動画で商品をアップすると、反響が大きいです。阿賀野市で精肉の卸とスーパーをされている「食鮮館 名古屋」さんのモツ鍋もすごかったです。私が食べてみて「これは絶対に売れる!」と思ったおいしさだったのでインスタで動画をあげたのですが、50食が23時間で売れ切れて。名古屋さんの営業の方もびっくりされていました。私がおいしいものを食べた時の心のバロメーターをダイレクトにSNSやチラシに表しているせいか、それをご覧になっていらっしゃるお客様の熱量も半端ないんですよね。SNSはお店と自分の名前で発信する手前、リスクもあるとも思いますが、宣伝という意味で効果は絶大だと感じます。

 

昔に比べてお客様の層も幅広くなったと聞きました。

 

栗林:
お店がある味方周辺は品ぞろえもいい大手スーパーがあるのですが、昔から通ってくださっている常連さんや地域のお客様に今もご利用いただいています。市内外から若い世代の方もたくさんご来店いただき、本当にありがたいですね。最近は「インスタグラムを見たよ」という6070代のお客様もいらっしゃいます。私が宣伝した商品だけでなく、マスヤが昔から扱っているお刺身やお惣菜なども購入していただいています。おかげさまで、2020年度以降は経営も上向きになってきました。

 

経営にも結果が結びついているのですね。

 

栗林:
経営に関しては本当に素人なので、この3年ほどは決算書などはあまり注視しないで「これだけの売り上げを達成する」と売り上げにコミットしていたんです。ですが、今後の展望の一つとして、経営面にさらに力を入れていきたいと。そのために、経営に関する本を読み始めたところです。経営に関しては、これから考えなければならないのは次のフェーズだと思っています。

 

具体的にはどのようなことを考えていらっしゃいますか。

 

栗林:
数字の面ももちろんなんですが、私がイメージしているのは、このお店で働いてくれている社員のみんなの強みを生かせる仕事、ポジションについてですね。東京で働いていた頃も感じていたことなんですが、短所ばかり指摘されていても短所は直らない(笑)。それだったら一人ひとりが長所や個性を磨き続けて、短所になる部分は他の人たちで補っていける組織を作れたら、より強い組織ができるんじゃないかと思っています。私がそうだったように、得意なことを活かせる環境であること。それはスタッフ一人ひとりの働きやすさにもつながると考えています。

ローカルスーパーの発信で、街と人を活気づけたい

最近は外から声がかかって、栗林さんの思いや経験を話す機会が増えているそうですね。

 

栗林:
ありがたいことに、昨年は自分が卒業した中学校の校長先生からお声がけいただき、中学生の皆さんに私の経験や今やっていることをお話する機会がありました。地元で頑張っている先輩がいるということで招いていただいたんですが、その講演の後も地元のお祭りで中学生に会うと「あ、マスヤの店長だ!」と声をかえてもらって、そこから地元の子どもたちとの交流も少しずつですが生まれています。また、新潟大学で経営戦略論やマーケティング論を教えていらっしゃる伊藤龍史先生にお会いする機会に恵まれました。明和義人のブログを通じてです(笑)。私は伊藤先生が研究されていることに興味があって、一方で伊藤先生は女性経営者を探していらっしゃって、いやぁ運命の出会いでした(笑)。今年は伊藤ゼミとのコラボも予定しています!

 

どのエピソードも、栗林さんのバイタリティと行動力の高さを感じさせますね。

 

栗林:
基本的に当たって砕けろ、会いたい人には会える時に会いに行くが、私のモットーです!つまり、できなかったらどうしようと考える前に、とにかく行動することが大切だと思っています。何もないところから一歩踏み出せば、結果は必ず後からついてくるのも、この23年で体感しています。そのためにも後ろ向きな言葉は一切使いませんよ(笑)。あと、お店や商品の宣伝をしていく中で感じたのが、情報を発信する人のところに情報は集まってくるということです。特にSNSはお客様とダイレクトにやりとりができて、情報をキャッチしやすいですし、インスタグラムを見た全国各地の生産者さんやメーカーさんが「これもぜひ食べてみてください!」と連絡をいただくことも多いんです。だから、情報を発信すると自然と“良い”情報が集まってくるんですよね。そのおかげで、カニの目利き名人や、ハネもののレモンで商品開発をされている起業家の方と出会ったり、思いがけない出会いがあるのも面白いんです。そういった情報を私目線でお届けしながら、ものを売るだけでなく、ライフスタイルそのものを提案する…そんなスーパーを目指していきたいです。

 

お店では、地元のご年配の皆さんも楽しそうに買い物をされているのが印象的でした。

 

栗林:
そうなんです!きっと、最初の頃は「マスヤが何か変わったものを売り始めたぞ」と思われていたかもしれません(笑)。けれど、全国のおいしいものを地道にPRしていくことで、ご近所のご高齢のお客様も、全国各地の商品を手に取ってくださる機会が増えていきました。「この前買ったの、おいしかったよ」と直接声をかけてくれたり、マスヤがテレビや雑誌で紹介されることがあると「見たよ」と喜んでいただくこともあって、地域の皆さんの応援が励みと支えになっています。地域の一つの店が頑張って活気づくだけで街全体が活気づく、そんなふうに感じます。

 

ありがとうございました。最後に明和義人祭へのメッセージをお願いいたします。

 

栗林:
明和義人についてはほとんど知識がなかったのですが、こんなに高い志を持って、エネルギッシュに活動していた方々がいたんだと感動しました。行動を起こす人の周りに人は集まってくるものですし、力を合わせて何かを成し遂げることの大切さを伝えてくれる、貴重な歴史だと思います。お祭りを通して行動することの大切さを次の世代に人たちに伝えていきたいものですね。

「明和義人伝~モダンタイムズ~」とは

明和義人に準え、現代で『勇気をもって行動し、自らの手で未来を切り開こうとしている人』にスポットをあて、今までになかったものを始めようと思った原動力や、きっかけ、そして具体的な活動内容を紹介します。新しいことを始めようとしている方の一助となれれば幸いです。