「明和義人伝~モダンタイムズ ep~」第4回 : 志穂さん

プロフィール

志穂さん
古町芸妓

長野県白馬村出身。小学校低学年の頃から茶道を10年ほど習い続ける他、幼少期から着物や和裁など和の文化に興味を持つ。高校卒業後は新潟市にある和裁の専門学校に進学。学校行事の際に古町花街や芸妓の歴史に触れ、芸妓として働くことを決意。専門学校卒業後は(株)柳都振興に入社し、現在芸妓歴7年目。2023524日に振袖から留袖に昇格。2023年の「明和義人祭」で、お雪役を務めた。

和裁士になることを夢見て、長野県から来たという志穂さん。
学生時代に古町芸妓の芸と粋に魅了されたのを機に古町芸妓の世界へ入り、7年目を迎えます。
2023年5月には留袖さんに昇格し、明和義人祭では「お雪さん」役を務めた志穂さんに、お祭りの感想や古町芸妓としてのこれからの展望についてお聞きしました。

参加者の笑顔を間近に感じた明和義人祭

2023年の明和義人祭では「お雪さん」役で参加をされました。当日はいかがでしたか?

 

志穂:
とても暑い日だったのですが、普段ではなかなか見ることのできない催しや参加されている方々の笑顔を間近で見ることができたりと、お祭りのにぎわいや楽しさを感じる貴重な機会になりました。古町芸妓として古町芸妓舞に参加をさせていただいたことは何度かありましたが、お祭りの最初から最後までの工程に携わったことはなかったので、お祭りの全容がよく分かりましたね。
中でも、涌井藤四郎、岩船屋佐次兵衛、お雪さんの御霊をお招きして、ご神燈に点火する採火式や御霊おこしはとても新鮮な気持ちで参加させていただきました。「今日1日、お雪さんとして過ごすんだ」という気持ちが整った儀式でしたね。

 

 

涌井藤四郎、岩船屋佐次兵衛役のお二人とも、たくさんお話されたそうですね。

 

志穂:
涌井藤四郎役の久保有朋さん、岩船屋佐次兵衛役の相澤俊一さんとは以前から面識があったこともあり、控え室でも肩肘張らずに、リラックスした雰囲気で過ごすことができました。久保さんは花街の文化を研究されていることもあって新潟樽砧のエピソードを教えていただいたり、お雪さんと藤四郎はどれくらいの関係性だったのだろう?とか、戦友のような意識があったのではないか?といった面白い見解も聞くことができて楽しかったです。

 

 

志穂さんが感じた「お雪さん」の印象は?

 

志穂:
書籍で読んだ限りの印象ですが、憧れる部分は多いですね。例えば、芸で身を立てていくという一本芯の通った強さや、二度と会えなくなるかもしれない藤四郎にきちんと自分の思いを告げることのできる素直さは、同じ女性として惹かれました。また、物語を読んでいく中で私なりに感じたのが、お雪さんは華やかな雰囲気が好きなのではないか?ということです。それもあって、お雪さんのイメージとかけ離れすぎないように、今年は赤みがかった紫色の着物を選んでみました。

日本の文化が凝縮された古町芸妓という仕事

長野県出身の志穂さん。新潟にはどのようなご縁でいらっしゃったのですか?

 

志穂:
私は長野県白馬村の出身です。幼い頃から母の影響で裏千家の茶道を習っていたり、お裁縫や着物が好きで浴衣を縫う機会があった中で、自然と和の文化に惹かれていきました。茶道に関しては10年以上続けていたこともあり、畳の歩き方や器の扱い方など、基本的な所作を身に付けさせてもらうことができました。高校卒業後は、新潟市にある和裁士の専門学校に進学したのですが、当時はひたすら着物を縫って和裁士を目指すという生活を送っていました。

 

古町芸妓を知ったきっかけを教えてください。

 

志穂:
専門学校時代に地域学習で遠足に出かける機会があり、「新潟花街茶屋」という今も開催されているイベントに参加したことがきっかけなんです。その時は旧齋藤家別邸を訪ねて、古町芸妓の舞を鑑賞したのですが、古町にこういった文化が残っていることを全く知らなくて。地方に花柳界が残っていることも珍しいですし、お姐さん方の踊る姿にも釘付けになりましたね。古町芸妓のお座敷は、着物や季節の設え、花や掛け軸、建築もそうですし、日本の文化が凝縮されていると、その時に感じました。
それからはもう親を説得です(笑)。長野にはこういった文化がないこともあり、古町芸妓になることも当初は反対されていたのですが、柳都振興という株式会社に所属すること、商工会議所のバックアップがあり、選挙のCMに出るような新潟を代表する仕事であることなど、古町芸妓にはどれだけの価値がある仕事かということを伝えて了承を得ました。

 

晴れて古町芸妓になられましたが、その当時の思い出は。

 

志穂:
お茶や着物に関しては予備知識がありましたが、唄と踊り、鳴り物と呼ばれる楽器類は全くの初めてだったもので最初は戸惑いましたね。芸事を教えてくださる市山七十郎先生に基本の基から教わりましたが、リズムやテンポを本当に覚えられなくて、頭を抱えたり…。「繰り返して長期間やれば定着する」と自分に言い聞かせて、頭の中に学習曲線を思い浮かべながら自分を奮い立たせながら取り組んでいました。芸事への向き合い方という点では、今もその気持ちは欠かせないものだと思っています。

古町を起点により広く、深く、花街文化の発信を目指して

志穂さんは古町芸妓になって7年目になられます。
花柳界を受け繋いでいく一人として、どのような活動をしていきたいと考えていますか。

 

志穂:
実は花柳界では、昨年だけでも引退されたお姐さん方が多く、皆さんこれまでの新潟の花柳界を懸命に引っ張ってこられた方々なのですが、これからは私たちの世代が中心となって盛り上げていかなければならないと感じています。これまでのやり方だけですと、どうしてもお座敷にいらっしゃるお客様の世代も決まってきますので、文化の継承という点ではさらに若い世代の皆さんに、お座敷を通じて古町芸妓という文化に触れていただく機会をつくりたいと思っています。その取っ掛かりとして、昨年くらいから芸妓一人ひとりがインスタグラムのアカウントを作るなどして、SNSで古町芸妓の日常や活動を知ってもらえるよう取り組んでいます。私も昨年からインスタグラムを始めました!

 

志穂さんご自身が挑戦してみたいことはありますか?

 

志穂:
古町界隈は飲食店やカフェも多いので、お店の皆さんと古町芸妓がコラボしたスイーツの提供などは、ぜひチャレンジしてみたいですね。私たちの活動の中でもお店に冊子を置いていただいたりと、たくさんご協力いただいている中で、そこからもう一歩踏み込んで、一緒にできることがないか?と常々考えています。さらに欲を言えば、古町エリアを起点に若い世代が多いといわれる万代エリアとの関わりも強化していきたいですね。
そのためには古町芸妓の派遣事業に関わる新潟三業協同組合の加盟店を増やして、古町芸妓とお座敷をより気軽に楽しんでいただける仕組みも必要になります。組合の体系や料金の制度といった部分はなかなか難しいと思いますが、皆さんは古町芸妓を呼べるシステムが明確でないという点で、ハードルの高さを感じていらっしゃる方も多いように感じました。一目見て分かる仕組みやマニュアルといったものも重要になるのかもしれません。現代の感覚に則した古町芸妓の新たな一面を模索していきたいです。

お座敷体験の思い出を、新潟観光のお土産に

これまで古町芸妓として経験を積むことで、感じたことや得られたことは。

 

志穂:
例えば、新潟三業協同組合に加盟されている料亭さんでおいしいお料理を味わって、空間や花、掛け軸、坪庭といった設えを楽しんでいただき、私たちの芸事を見ていただく…これはもう日本というよりも新潟・古町でしか体験できない、発信できないことだと、古町芸妓としての活動を通じて改めて感じました。お座敷は日本の文化そのものを体感できる一つの時間なんです。このひとときを、思い出というお土産として持って帰っていただきたいですね。実際に、県外からのお客様は一度お座敷を体験されるとリピーターになられる方がとても多いんです。これには私も少し驚いたのですが、一度来ていただくと必ずその良さが分かるという強みが、お座敷にはあると実感しています。

 

 

志穂さんが思う、新潟、古町だからこそのお座敷の魅力を教えてください。

 

志穂:
歴史がある文化だけに「お座敷で芸妓を呼ぶことができるのは、上流階級の人だけでしょう」と思われてしまいがちなのですが、お座敷には特別な作法もありませんし、まずは気楽に楽しんでいただきたいと思っています。新潟三業協同組合に加盟されている料亭さんにほとんど一見さんお断りがありませんし、初めてお座敷を体験されたお客様には、「よくしゃべるねぇ」と言っていただくことがほとんどです(笑)。聞くと意外と思われる方も多いかもしれませんが、古町花街には初めてお会いする方をお返しする際に、十年来の友達かのように「また来るね」といった気さくな雰囲気で送り出す、温かい空気があるんですよね。たくさんの人が往来する港町で、さまざまな人の気持ちの寄り添う、そんな新潟・古町ならではの人懐っこさを体感していただけるのではないかと思います。

 

 

明和義人祭に対すること、メッセージをお願いします。

 

志穂:
明和義人は港町として発展、町人の心意気も含めて、新潟市の歴史に欠かせないエピソードだと感じています。だからこそ、明和義人祭を行う意義をもっと知ってもらいたいですね。今年のお祭りでは学生の皆さんが楽しそうに踊っているのが印象に残っていますが、そういった様子を見て一緒に踊ってみたいなと思う方もいらっしゃったと思います。今まで以上にたくさんの人が参加できるような催しを考えるのもいいかもしれませんね。
古町芸妓としては、8月のお祭りに限らず、年間を通して街の皆さんに明和義人について知っていただいたり、語り継いでいく機会を、私たちの活動を通じてつくっていきたいです。

「明和義人伝~モダンタイムズ~ep」とは

明和義人祭にて主人公を演じていただいた方に感想やご自身についてのエピソード(ep)をお伺いし具体的な活動内容を紹介します。明和義人を知るきっかけとなり新しいことを始めようとしている方の一助となれれば幸いです。