「明和義人伝~モダンタイムズ~」第15回 : 山本一輝さん

プロフィール

山本一輝さん

Inquiry合同会社 CEO

1986年新潟市生まれ。大学時代は教育心理学を専攻し、卒業後は飲食業界の企業に就職。2011年に東日本大震災を仙台で経験したのを機に転職、(株)リクルートへ入社。営業として大学・専門学校の広報企画や組織開発、高校の進路講演講師などを担当。仕事の傍ら、東北被災地域の若者のキャリア教育や地域の大人と大学生を繋ぐ活動などに広く携わる。2016年、新潟にUターンし「Idea partners」を創業。フリーランスとして活動を続け2021年に新たに「Inquiry合同会社」を設立。20224月「地域人事部アライアンスネットワーク」の発起人となり、地域ぐるみで人の問題解決を実現する全国的な支援体制の構築に携わる。ラーニングデザイナー。キャリアコンサルタント。ICC国際コーチング連盟認定コーチ。

中小企業の組織開発や人事・採用における支援、
産官学の人材育成、キャリア教育など、
地域や企業のおける「人」の課題に
数多く向き合ってきた山本一輝さん。
新潟を拠点にして全国へと活動を広げ、
人や企業が育つ仕組みづくりに奔走する山本さんに、
「人」に関する課題や向き合い方、
事業への思いをお聞きします。

人と企業が育つ仕組みを、地域ぐるみでつくる

山本さんの現在の仕事について教えてください。

 

山本:

大きく分けると3つになります。1つは人と組織に関する経営課題解決を目的とした、中小企業向けの社外CHRO(チーフ・ヒューマンリソース/ヒューマンリレーション・オフィサー)です。経営視点で社内の人事や組織づくりに関して幅広くハンズオン支援を行っています。2つは地域、企業、教育機関、自治体など異なる立場やステークホルダーがコラボレーションし新しいものを生み出す取り組みの企画・コーディネートを行う、協働コーディネーター。3つ目は、いくつか認定資格も保有しているキャリアコンサルティングやコーチング、発達支援などの個人向けの事業も展開しています。業務内容が多岐にわたるので「山本さんは一体何をやっている人?」と言われてしまうこともしばしばです(笑)。

 

企業の採用・人事に関する問題は、さまざまな場面で見聞きします。最近はどんな課題が多いですか。

 

山本:

基本オーダーメイドで支援を行っていますが、まずは問題の発見と課題設定から丁寧に入らせてもらっています。「うちの若手が主体的に仕事をしない」とか「採用しても定着しない」といったお話をお聞きすることから始まり、よく探ってみると、そこが課題や本質ではないケースが多々あります。実は氷山の一角で、その末端や深部には組織編制や人材育成に課題があったり、経営戦略や事業戦略が定められていないせいで「どんな人を採用したいか」が明確でない場合は非常に多い。そのため採用から逆算して、企業の課題を見つけていくことからスタートすることもあります。そもそも経営者や社員の方々は人材領域の専門性を持ってないことがほとんどで、特に中小企業においては、私のような立場の外部人材を起用し協同するといった発想がないというケースもありますね。自分たちでだけで抱えてしまうということも問題の一因です。

 

山本さんは”伴走型”の支援に注力されているそうですね。

 

山本:

私は組織や人事コンサルではなく、社外CHROとして組織の中に入り込んで、経営者や社員の皆さんと共に組織を変えていくという認識でいます。やり方は色々ありますが、プロジェクトを社内で立ち上げリーダーになりそうな若手の方を巻き込み中長期的なリーダー候補の育成を行ったり、採用した人が活躍し経営戦略に貢献していけるようになるまで育成計画の立案と支援策を講じるなど、中長期的視点でトータルに考えるのは一般的なコンサルとは異なる点だと思います。伴走型コンサルティングとなると基本は企業の中に入り込み、早くて1年、振り返って大きな変化が感じられるまでは大体3年はかかります。その間には求める人材像と面接の際の質問事項の設計、面接に同席して面接者のコンピテンシーやポテンシャルの見極めをはじめ、未来に向けてどういう会社になりたいか、そこに向けてどんな人に入ってほしいかの言語化なども行います。時間と手間、必要経費を惜しまないこと、求める人材像や発信する情報整理を行うだけでも、確実に組織は変わっていけると思っています。「採用がうまくいかない」という企業は、だいたいこれらが欠如し場当たり的に採用活動をし、検証せず失敗を繰り返しているパターンがあります。人や企業に問いかけて変化を起こしていく仕事という点では、この3つの仕事はどこかでつながっているとも思っています。

未来をつくる人を見据え、多角的な支援を

教育機関や自治体とはどのような取り組みを。

 

山本:

協同コーディネーターとしては、これまで五泉市の「GOSEN KNIT FES」や「燕三条 工場の祭典」を題材にした燕三条ローカリストカレッジなどを手掛け、地域の高校生や若手社会人と共に企画だけでなく、イベントそのもののコンセプトや構造をつくることにも関わりました。イベントに関わり、課題を抽出して問題を見つけて行く中で、地域で働く人、商品を買ってくれる人、一緒に運営してくれる人がいないなど、やはり人に問題があることがわかってきたんですね。イベントとなると動員を増やすことを目標にしがちですが、それよりも未来の顧客創造や、イベントの過程で関係人口をつくっていくことで、地域の企業の将来的な採用や営業の課題解決に繋がるものをテーマにしようと進めていきました。数年にわたって続けていくことで徐々に関係人口が増え、コンテンツだけでなく高校生や地域の方々がイベント自体の魅力となり、外部から評価や理解されていくことに主催者側も気付いていきました。

 

キャリア教育、職業教育の双方からの支援になりますね。

 

山本:

未来の働き手というのは、地域の持続可能性において必要不可欠です。私が携わる若者支援事業では、その地域で就職した社会人1年目~3年目を対象に地域同期として官民合同研修で集まり、社会人として必要なコミュニケーションスキルやキャリアデザインを学び、横のつながりづくりを目的とする「ルーキーズカレッジ」があります。山形2地域、岩手、宮城、長野、新発田市でも行った実績がありますが、山形県最上地域では「ルーキーズカレッジ」に参加した社員の方たちが、先輩社員として卒業後に地元で就職が決まっている高校生たちの支援に関わってもらうような場もつくりました。同時に、行政の事業で「仕事の魅力伝え方研修」も行い、インターンや職場体験を受け入れる企業側の意識やプレゼンスキル向上にも取り組み、結果として最上地域では高校生の地元就職率が改善されたんですね。すぐに結果に結びつきはしませんが、3〜5年で継続することで人材育成の還流システムとして定着させることで確実に結果は出てくる。目先の結果も大事ですが、そこに至るまでのプロセスもそれ以上に重要だということです。

 

新潟県内でも、中高生が地域課題や社会問題に取り組むプロジェクトが増えていると聞きます。

 

山本:

高校生、大学生が学校の外で主体的にプロジェクトを作って学んでいく、いわゆるアントレプレナーシップを育む教育は全国でも広がりを見せています。有名なものだと「マイプロジェクト」がありますが、実は新潟に戻ってくる前にマイプロ発祥地である東北で、震災を経験した高校生たちがプロジェクトを起こす活動にも関わりました。彼らは「震災後の町をなんとかしたい」とさまざまな人を巻き込み、大人顔負けのプロジェクトを行っていましたが、それを見たときに衝撃を受けました。こういった思いを抱える子たちが地域で生まれ、支援できるような仕組みをつくらないといけないと。そこから新潟へ持ってくるまでにけっこう時間がかかったのですが、2019年にようやく新潟でマイプロがスタートしました。マイプロに関わる学生は、企業が求める人物像にありがちな「明るく元気で素直、従順で真面目」というよりは、主体的で型にはまらず、実にクリエイティブです。新潟でもすでに起業家精神を持った学生は増えています。だからこそ、こういう子たちが社会の中で活躍できるようにならないと、世の中良くなっていきませんよね。いつの時代も変革は異端者や若者が担ってきました。その中で、私ができることは、企業側を変革するプロジェクトや仕組みをつくり、受け皿となる組織を磨いていくことだと思っています。私にも子どもがいますが、自分の子供を将来入れたいと思う会社を増やす、人に投資して挑戦を続ける会社や若い世代に選ばれる新潟をつくっていくのが使命と思いながら取り組んでいます。

 

昨年4月には、地域人事部アライアンスネットワークを設立されました。

 

山本:

地域において私が自ら一社一社の支援を行っていくのは限界があるということも感じていて、各地で「地域の人事部」が展開されていくことで、地域全体での課題解決や価値創造につながるのではないかと考えていました。その一手となるのが「地域人事部アライアンスネットワーク」という互助団体ですが、全国の支援団体で互いの得意・不得意の分野を補いながら、日本各地で人と組織の課題解決を支援する体制を整えていくことを目的としています。現在12団体が加盟しており、具体的な活動では毎月持ち回りでのオンライン勉強会の開催やタイムリーな情報共有を行う定期的なミーティングの実施。今年度は地域の人事部の取り組みをまとめた事例集の制作も進めています。各地で地域の人事部のような活動はありますが、成り立ちや運営体制はバラバラなんです。NPOと行政の協同もあれば、金融機関が始めたところもありますし、サービス内容も異なります。今後は事例集とネットワークのなかで蓄積された知見を活かし、地域の人事部をつくりたいという方々に向けに立ち上げ支援サービスの提供も予定しています。

 

各地域との横のつながりができたことで、得られたことは。

 

山本:

長年現場で支援に関わる中で、企業経営や自治体における問題は、環境や社会全体など地域を取り巻くシステムから面的に支援を行わなければならないと気付いていましたが、そこに気付いている人はそんなに多くはないようです。気づいていたとしても、具体的な実行レベルの施策に落とし込んで行動している人となると非常に少なくなる。先に気づいて動いてきた自分だからこそ、やる意義のあるものと考えています。経済産業省や関連機関とも連携しながら、全国規模で支援体制を整えていきたい。まだまだ道半ばですが、自分の活動を理解してもらい行政と民間でそれぞれがすべきことを明確にし、推進していくようなポジションになりつつあると感じます。

誰かの人生に感化を与える、唯一無二の仕事

ご自身の仕事の魅力ややりがいは、どのように感じていらっしゃいますか。

 

山本:

実は、自分のような仕事の仕方をしている人にほとんどお会いしたことがないんですよね。自分で仕事を創ってきたという点もありますが、他にはない仕事だということもこの仕事の面白さだと思いますし、やりがいという点では、自分がつくった仕組みや事業が、誰かの人生を変えているという瞬間に関わった時は震えます(笑)。先ほどもお話しした「GOSEN KNIT FES」は過去4年ほどコーディネーターとして関わりましたが、実際にそのような瞬間がありました。五泉高校と梅田ニットさんが協同で行ったプロジェクトに参加し、ニット会社の若手社員と共に活動した女子生徒が、そのプロジェクトを機にニット産業に興味を持ち、梅田ニットさんへの就職を決めたことがありました。入社後も仕事をしながら終業後に五泉ニットフェスのアンバサダーとして、イベント企画にも関わってくれたのが嬉しかったですね。また、私と出会って一緒に五泉ニットフェスの事業を進めていく中で、「地域に入り何か仕掛けていくことに面白さを感じた」と、最終的に五泉市の地域おこし協力隊に入った男子学生も出てきました。実はその彼は今、当社のインターンをしています。自分の仕事が人に何かしらの影響を与えるということは、怖さもありますが大きなやりがいでもあります。自分がやっていることにインパクトがあるからこそ、常に姿勢を正していかねばという気持ちですね。

 

社会人、経営者として、大切にしているポリシーはありますか。

 

山本:

「変化と挑戦を楽しむこと」と「覚悟なき人とは付き合わない」ことです。これは座右の銘でもありますが、起業にあたってはこの二つを重要視しました。変化と挑戦に関していえば、社会の変化が激しくて、変わりたくないと思っていても変わらざるを得ないような状況ならば、自ら変化に飛び込んでしまった方が、心構えができると思っています。「変化はコントロールできない。できるのは変化の先頭に立つことだけ」とはピーター・ドラッカーの言葉ですが、何かの選択肢や分岐点があったら、より自分に変化や挑戦がある方を選ぶことが、結果的に自分の人生をより良い方向に運んでくれると信じています。また、かつて営業職の傍らでプロボノとして地域での活動に関わる中で、儲けや急成長を目的とするのではなく、自分の中のインテグリティ(誠実性)や一貫性を体現できる仕事がしたいという気持ちも芽生えてきました。そのためにも、自分が付き合いたいと思いたいと思えるお客様と共に、本質的な仕事をすることを今も重視しています。

経営者、大学院生、父親として見出す新たな挑戦や学び

今年の4月からは大学院での研究もスタートされました。

 

山本:

経営と2歳の息子の子育て、大学院の三刀流です。大学院では越境学習について研究し、論文を書く予定でいます。家と職場の往復でなく、ボランティアや複業兼業で人の能力や意識の発達がどう変わっていくのか、キャリア理論や心理学的な観点から研究を行いたいのと、40代の一つの目標として、いずれ大学で教鞭を取れるようなキャリアを構築したいという目標もあります。自身の原体験が発端ですが、越境学習の文化を企業にいかに導入できるか、越境学習のメリットを体系化、言語化していく必要があります。実際に越境学習を行なっている人は、挑戦を続けていますし、学ぶことに非常に貪欲なんですよね。だからこそ、私自身が学ぶこともとても大切にしています。

 

今考えている、新しい事業や取り組みについても教えてください。

 

山本:

新潟県、新潟市においては、若い世代の人口流出が大きな課題です。年代別では20〜24歳の転出数が最も多く、「職業」を理由とした県外移動が96%という調査結果が出ているほどです。一方で企業では、若手に“選ばれる”ための組織の変革が、今後ますます必要になります。そこで、人口流出と若手社員の定着率アップ、企業そのものの成長や挑戦、これらを多角的にフォローできる新しい仕組みを考えていきたいです。まだ構想段階ですが、高校生・大学、専門学生のキャリアデザインに関わるプロジェクトと連携しつつ、外部人材と経営者が会社の課題を解決しながら、会社の経営方針や事業をアップデートする仕組みを作ることを検討しています。今後は行政とタッグを組み、社会課題解決を双方から面的に行なっていくのが大きな目標です。若い世代は成長の機会を求めていますし、“選ばれる会社”には人を惹きつける人がいるものです。挑戦や学びを続けながら人を育てられる会社がこれから生き残っていけると、さまざまな活動を通して実感しています。そうした会社を地域で増やしていきたいですね。

 

これからの企業はどう変わっていくべきでしょうか。

 

山本:

私の考えでは、タレント事務所のような体制になるのが一つの理想の形です。社員一人一人がインフルエンサーとしての力を持っていたり、複業でさまざまなネットワークで人的資本や社会関係資本を複数有している。自分一人でも十分に食べていけるけど、理念やビジョンに共感し、一緒に働く仲間が好きだから所属して仕事をしたい。そんな人々の集まりがあれば、企業としてはある意味最強でしょうね。会社はそういう自律した人たちを活かす環境をつくり、社員同士でやる仕事もあれば一人で請ける仕事もある。このような柔軟性は結果として企業の生存率を高めますし、所属する社員の市場性も格段に上がるでしょう。もちろん簡単なことではありませんが、大手より中小企業の方が実現可能性あると思います。

 

最後に、明和義人祭についての印象やメッセージをお願いいたします。

 

山本:

新潟を離れていた期間が長かったこともあり、お祭りがあるということを今回初めて知りました。「開催すること」だけを目的にするお祭りでなく、関わった人が祭りを通じて、価値や文化を社会に発信できる仕組みがあるといいかもしれませんね。例えばですが、これまでこのブログで紹介した方々をメンターとして迎え、ソーシャルな活動を行ってくれる有志の市民を集めて地域課題解決のプロジェクトをつくり、その発表の場を明和義人祭とするのも一案です。お祭りが地域と市民のハブとなり、人材育成や価値創造のようなコミュニティデザインの一端も担うことができれば、明和義人の魅力や意義をさらに広めていけるのではないでしょうか。

明和義人祭実行委員より文庫本「新潟樽きぬた」を寄贈させて頂きました。

「明和義人伝~モダンタイムズ~」とは

明和義人に準え、現代で『勇気をもって行動し、自らの手で未来を切り開こうとしている人』にスポットをあて、今までになかったものを始めようと思った原動力や、きっかけ、そして具体的な活動内容を紹介します。新しいことを始めようとしている方の一助となれれば幸いです。