「明和義人伝~モダンタイムズ~」第10回 : 久保有朋さん

プロフィール

久保有朋さん

古町花街の会事務局長・旧齋藤家別邸学芸員。

1991年生まれ、新潟市南区出身。新潟大学工学部では建築学を学び、卒業後は同大学院で花街について研究し、博士号を取得。2015年より古町花街の会事務局に携り、古町花街地区防災会や新潟まち遺産の会の世話人として、古町花街を中心とした歴史的な建築や街並み保全、伝統文化の継承に幅広く取り組む。2020年からは旧齋藤家別邸の学芸員を務め、企画運営から広報も担当。​民俗学や伝統文化、古書にも関心を持ち、趣味は茶道(江戸千家)、古書収集、伝統芸能・絵画の鑑賞など。

新潟大学4年生の時に、初めて「花街」を知ってから花街の研究や新潟市のまちづくり活動に取り組んできた久保有朋さん。
花街の文化を芸と華やかな存在感で伝承してきた古町芸妓、風情と格式ある料亭街、歴史的にも貴重な街並み、それらを守り、受け継ぎたいと日々活動の幅を広げています。
さまざまな切り口で古町花街の活性化に励む久保さんの思いを伺います。

建築から花街の研究へ。終生の研究テーマを見出した大学時代

久保さんは大学時代から花街の研究に取り組んでいらっしゃいますが、花街に興味を持ったきっかけから教えてください。

 

久保:

もともとは建築士を目指して新潟大学の建築学科に入ったのですが、3年生の終わり頃、花街の都市空間についても研究をし始めたという都市計画研究室に出会ったんです。大学4年生になるまで「花街」という町は小説でしか知らない世界でしたし、「花街」という伝統文化・地域文化を丸ごと今に継承している場所があると知って衝撃を受けました。高校生の頃から民俗学や文学系が大好きで、街の文化にも関心があったこともあり、その研究室に入ることにしました。伝統文化や目に見えない歴史などを考えていく方が、自分の気持ちに合っていたというのもありますね。

 

大学時代はどのような研究を。

 

久保:
東京・八王子の花街の景観やまちづくりをテーマに研究をすることになりました。同時に研究室の学生として、古町花街のイベント運営の手伝いをする中で、古町花街の魅力にも気付かされました。「新潟にもこんなに素晴らしい歴史や文化があったのか!」と再び衝撃を受けまして(笑)。それから古町花街のまちづくり活動にどっぷりと入っていくことになって、今に至ります。思えば、最初に花街と向き合う中で生まれた「花街の景観とまちづくり」という課題が、私の研究やまちづくり活動の終生のテーマであり、原点です。

まちづくり活動の波及は人の“和”にある

久保さんの現在のお仕事、研究についても教えてください。

 

久保:
本業は新潟市西大畑にある旧齋藤家別邸の学芸員です。企画展の企画運営やイベント、セミナーの企画調整から当日の運営、講演や講師、SNS発信なども担当しています。それ以外では、「古町花街の会」が主要な活動になります。古町花街の会」は歴史ある古町花街の文化に磨きをかけ、古町活性化に繋げるための市民活動。私は2015年の夏から事務局として参加していますが、花街というエリアの中で商店街や料亭の方々も入っていて、他にも花柳界に直接関わりのない飲食店や町内会、経済界、大学も参画して、多様な業種や業界が関わりながら古町花街の未来を考えていくのが会の趣旨。他にも「古町花街地区防災会」「新潟まち遺産の会」にも所属しており、花街を軸に歴史や伝統を守り、受け継いでいく活動に力を入れています。まちづくりや花街に関する活動は、週5日ある旧齋藤家別邸の仕事後とお休みの日に行っています。

 

さまざまな会や活動に関わることへのやりがいや面白さは。

 

久保:
本格的に活動し始めてからまだ7年半ほどですが、最近は芸妓のメディア露出の増加、お座敷や地元のイベント、学校教育の場まで、古町芸妓の活躍の場が広がってきました。少しずつ花街の魅力を知る方々が多くなってきていると実感できることにやりがいを感じますね。花街の価値の周知が進むことで、花街の景観保全への理解が広がっています。近年は行政も積極的に関わって、一緒に景観ルールづくりや合意形成を進めるなど、連携する機会も増えてきました。防災会についても活動を続ける中で少しずつ仲間が増えていき、最近は心強い若手の飲食店経営者なども活動に加わっています。活動の幅を広げていくことで、人の和も広がり、いい流れになっていると感じています。

伝統と文化を紡いできた古町花街が誇る価値

日本にはどのくらい花街が残っているのでしょうか。

 

久保:
全国的に見ると、60カ所くらい現役の花街は残っています。その中で伝統的な街並みが残っていて、料亭やお茶屋などの花街としての機能が十分に継承されているのは、実は京都、金沢、新潟しかないんですね。京都や金沢というと、お茶屋さんがずらりと並んでいるイメージですが、新潟の古町花街では大小さまざまな規模の料亭が並ぶ歴史的な街並みがありますよね。実はこれ、新潟にしかない景観で、全国随一の伝統的料亭街という誇るべき景観なんです。

 

その中で久保さんが感じる古町花街の魅力は。

 

久保:
建築でいうと、古町花街の料亭では数寄屋風建築が多く、質の良い高級な材料を、煌びやかにはせず上品に使い、建具のデザインも繊細で美しいものがとても多く、歴史的な建築としての魅力が残っていることです。その料亭の中にある日本庭園、趣のある路地景観も同様です。花街は日本の伝統文化を包括的に継承されている唯一の空間だと私は考えています。 日本舞踊、三味線、鳴り物といった芸事、着物や日本髪なども古町芸妓たちが支えてきた文化。特に若手の古町芸妓は柳都振興という株式会社組織に所属し、福利厚生の整った環境で芸の研鑽やお座敷の仕事に取り組めるなど、まち全体で応援する仕組みが整っています。芸妓としての仕事をしながら家庭を両立されている方もいて、純粋に芸に生きることのできる環境がある、これは全国的にも殆ど類を見ない取り組みです。

 

花街というと「ハードルが高い」と思われる方も多いのではないでしょうか。

 

久保:

今もそう感じていらっしゃる方も少なくないと思いますが、実は昭和初期の古町花街は、蕎麦屋や洋食屋など、現在よりも幅広い飲食店で芸妓を呼ぶことができたといわれています。それだけ大衆的なものだったんですね。その後、戦後の高度経済成長でまちが潤った時期に、花街は高級な場となっていきましたが、昭和の後半には社会情勢の変化や娯楽の多様化によって店舗や芸妓は減少してしまいました。ですが、平成に入ってからはさまざまなイベントに古町芸妓が出演することで、より身近な文化として再び親しまれるようになってきました。また、大小さまざまな規模の料亭があることで、お座敷体験の価格や内容が幅広いことも古町花街の強みだと思います。例えば、一人5,000円ほどで古町芸妓の踊りを3曲ほど、そして料亭の懐石料理をいただいてと、お座敷を気軽に体験できる仕組みづくりも積極的に行われてきました。実際に学生さんがお座敷を体験したいといらっしゃることもあります。花街というと「上流階級のもの」と思う人もいるかもしれませんが、そのイメージを変え、社会のニーズにも柔軟に対応しながら古町花街は生き残ってきたんですね。

まちに住むことで見えてくる、花街の人々の温かさ

まちづくり活動の中で、久保さんが最も大切にしていることは。

 

久保:

私の中で二つあって、一つは活動をする地域に暮らして、まちの人々と同じ目線になること。もう一つは、そのまちの人々が「やってほしい」と思うことに、まず自分も取り組むことです。まちづくりに関わらず、自分の想いで動くことに対して誰かに協力してもらうよう依頼するなら、「相手にとってもメリットがあること」だけでなく、相手がしてほしいと思っていることをやる努力をすること。ちょっとしたことを日々積み重ねていくことで信頼関係をつくっていくことが、まちづくりにはとても大切なことだと思っています。実際に古町花街の町内の一員として私もゴミ当番を担当するなど、当たり前のことをまちの皆さんと一緒にやっています。自分目線ではなく、相手目線でもwin-winになるように日々取り組むことを心掛けています。古町に暮らしてみて分かったのは、古町花街の皆さんは義理を大事にした温かい人ばかりだということ。だからこそ、昔から住み続ける人、新しく関わりたいとやって来る人、その間で自分がうまくつなぐ存在でありたいです。

 

今後はどんな取り組みをお考えですか。

 

久保:
古町花街の街並みを守る制度や仕組みつくりには、これからも力を入れていきたいです。防災会関連では、地域防災の体制づくりや消火備品の拡充を進めつつ、将来的には防災水槽の設置や防災公園の計画など、規模の大きいハード面の整備にも繋げていけたらと考えています。個人的なものとしては、今後、縁があれば、古町花街の価値ある建物を買い取って、そこを新しいコミュニティーの拠点にできたらという思いもあります。今ある「古町柳都カフェ」のように、古い歴史的な建物の価値を伝えていくと共に、県内外からいらっしゃったお客様が気軽に芸妓のおもてなしに触れることのできる機会の創出にも貢献できたらと思います。

 

最後に、明和義人祭に対すること、メッセージをお願いします。

 

久保:
明和義人祭は古町で開催されるお祭りですし、新潟の歴史を伝えるためにも最適なイベントだと感じていました。特に古町芸妓が総出演するということも、とても貴重な機会ですよね。古町花街のにぎわいにも貢献されていると思います。町人が自治を行なってきた港町・新潟ならではのエピソードにも惹かれます。もっとこのお祭りの歴史や意義も多くの方々に知ってもらえるとうれしいです!

明和義人祭実行委員より文庫本「新潟樽きぬた」を寄贈させて頂きました。

「明和義人伝~モダンタイムズ~」とは

明和義人に準え、現代で『勇気をもって行動し、自らの手で未来を切り開こうとしている人』にスポットをあて、今までになかったものを始めようと思った原動力や、きっかけ、そして具体的な活動内容を紹介します。新しいことを始めようとしている方の一助となれれば幸いです。