「明和義人伝~モダンタイムズ~」第4回 : 江口歩さん

プロフィール

江口歩さん

1997年に新潟市で立ち上げた「新潟お笑い集団NAMARA」代表、(有)ナマラエンターテイメント代表取締役。ライブ活動、テレビ・ラジオ、イベント出演のほか、学校や企業・団体での講演、さまざまな分野の社会問題を扱う講演活動など、既存のお笑いにはなかったジャンルでも幅広く活躍。笑いと人、笑いと物事を掛け合わせエンターテイメントにしてしまう、独自のスタイルを作り上げている。

2022年に25周年を迎えた「NAMARA」代表の江口 歩さん。
メディアやイベントへの出演だけでなく、社会問題をテーマにした講演やワークショップも数多く行ってきました。
多様な人たちの交流を目的とした「エンタメミックス新潟2021」も開催。
自身が抱くエンターテイメントへの思いや可能性を伺いました。

笑いを通してさまざまな社会問題に切り込む

「NAMARA」を立ち上げた動機と、その原動力は?

 

江口:
最初は単純に、好きなことをして生きていきたいという思いだったと思います。1996年頃、面白い仲間を集めてお笑い集団を立ち上げたい、でもどうやって集めようか?という時に、新潟で誰が一番面白いかを決める「新潟素人お笑いコンテスト」を開催しようと思いつきました。そうしたら思いのほかいろんな人が集まって、爆笑問題をゲストに呼んだこともあって、コンテストは結構盛り上がりました。それで、新潟でお笑いのプロダクションを作ってしまおうということになりました。その頃、居酒屋で会社の愚痴とか、「新潟って何か面白いものがないよね」とか、そんな声ばかり聞こえてきて、「じゃあ自分で作ればいいのに」と常に思っていました。自分の好きなことをできる環境を作れば幸せなんじゃないか。いろいろ愚痴を言っている人たちに、それを知らしめたいというのが、そもそもの原動力だったかもしれません。

 

「NAMARA」を立ち上げた当時の活動内容は?

 

江口:
最初の5年ぐらいは、さまざまな芸人さんたちと一緒にライブをやっていましたが、残念ながらライブだけでは食べていけないので、お祭りやイベントへの出演も並行してやっていました。仕事に関しては、断る理由がないというか、どんな仕事でも頼まれたものは全てYESで動いていたのですが、そのうちに社会課題、困りごと、具体的には学校のいじめとか環境問題、まちづくりなどに関しても、「お笑いを使って何かできませんか?」という依頼が徐々に来るようになりました。テレビ・ラジオという一般的な芸能の仕事もやりながら、もう一方で、社会課題に関わる仕事が増えてきたのです。

先生と生徒、親と子の間を繋ぐ存在に

社会課題をエンターテイメントするという仕事の具体例は?

 

江口:
「お笑い授業」というのがNAMARAの定番になっています。多分うちの芸人で2,000校以上の学校に行っているのではないでしょうか。生徒と先生、もしくは親との関係性を円滑にするためのコミュニケーション技法みたいな授業をお願いできないかとか、他にもSNSのトラブルを防止するための方法とか、いじめの問題をお笑い芸人からの目線で詳しく話してくれとか、環境問題とか、いろんなテーマに関する依頼が来ます。具体的に言えばきりがないくらい、いま報道されている社会問題は、ほぼほぼやっていると思っていいですね。

 

「NAMARA」の役割はどんなことだと思いますか?

 

江口:
先生と親御さんの仲立ちをするという仕事は、「コミュニケーションがうまく行かないからNAMARAさん来てください」ということ。先生とか親、子供がスムーズにコミュニケーションを取れていれば僕らは呼ばれないわけなので、僕らはその通訳であり翻訳であると思っています。例えば、学校が生徒に「SNSは危険です!」と言っても聞かない。聞こえないし、聞く耳を持たない。だけど僕らの言葉で「SNSってやべえこともあるんだってさ。だから注意しないとやべえことになるぞ」と、わかりやすく、面白く伝えることによって生徒は聞いてくれるのです。どこの現場も、僕らはあらゆる関係性の中間に立って通訳・翻訳する役割、それがお笑いにできるのだということを発見してから、じゃあどこでも行けるよねと思いました。

組み合わせることで予想外の化学反応が起きる

学校だけでなく行政の仕事も多いそうですが、最近変化などありましたか?

 

江口:
行政では教育関係の課、環境、男女共同参画、福祉課などあらゆるジャンルの部署とお付き合いがありますが、仕事を通じて幅広く関わるほど「この課とこの課をつなげたいな」「この課とこの課がコラボすれば、今までに出来なかったことが可能になるかも」というのは感じていました。ですので私たちが間に入ることで何かお手伝いできないかなとはずっと思っていました。それが最近少しずつカタチになってきているのでうれしいですね。

 

「エンタメミックス新潟2021」のきっかけと、開催してみての感想は?

 

江口:
新潟には民放が4局あって、それぞれ素晴らしいエンターテイナーがいるのだから、横の繋がりがあればもっと面白くなるだろうなということは常々思っていました。みんな単体で頑張っているけど、組み合わせたらもっと新潟を面白くできるのではないか、エネルギーを発揮できるのではないか。そんな思いがきっかけとなった取り組みです。実際に開催してみたら、化学反応が起きました。民放4局、お互い顔だけは知っていたけど、いざ触れ合ったら電気が走ってこれは面白いということを体感したり、もっと別なバージョンでも膨らむんじゃないかというイメージも出てくる。お客さんも盛り上がっていろんな場所で拡散する。これは1回きりではもったいないという感覚になって制作現場は新たに形を変えてできないかな?と、どんどん広がっていきました。今、すでに僕の手を離れて勝手に動き出しているところがありますね。

エンターテイメントとは、共生+維持すること

江口さんが考えるエンターテイメントの意義とは?

 

江口:
一般的に皆さんは「娯楽的要素」と捉えるかと思いますが、語源を調べるとラテン語で「エンター」が「一緒に」、「テイメント」が「維持する」という意味。共に共生して、維持する。SDGsですよね。新潟で僕らが社会課題をテーマに活動を続けること自体がエンターテイメントだし、これを実現するのに一番有効なことがエンターテイメントだと僕は捉えています。そう考えると、「エンタメミックス新潟2021」でみんなが繋がったことも不自然じゃないですよね。コロナ以前は自分たちの縄張りがあって、自分ファーストみたいなとこがあったけれども、ここまで世界がダメージを受けたら、やっぱりみんなで繋がって一緒に共生して生きていく、その道筋を探すべきじゃないかなと思います。

 

明和義人祭に期待すること、メッセージをお願いします。

 

江口:
自分の役割を持って使命を果たせるという人たちが、より多く新潟から生まれていけばいいなと思います。というか、もういるんじゃないでしょうか。いま令和の時代に、「明和義人」がいると思いますよ。その人たちをもっと掘り起こして世に伝えてあげること。それぞれが単体で頑張っているけど、それもミックスしたらどうかなと思います。明和義人祭は、現代の「明和義人」を一堂に介して、それぞれの使命や役割、新潟をどうしていこうかというエネルギーが集まる場となればいい。現代にいる、明和義人の意志を継いだ人たちの「義人ミックス」に(笑)

明和義人祭実行委員より文庫本「新潟樽きぬた」を寄贈させて頂きました。

「明和義人伝~モダンタイムズ~」とは

明和義人に準え、現代で『勇気をもって行動し、自らの手で未来を切り開こうとしている人』にスポットをあて、今までになかったものを始めようと思った原動力や、きっかけ、そして具体的な活動内容を紹介します。新しいことを始めようとしている方の一助となれれば幸いです。