「明和義人伝~モダンタイムズ~」第2回 : 肥田野正明さん

プロフィール

肥田野 正明さん

(株)バウハウス(ビルメンテナンス・ソーシャルビジネス)の代表取締役。他に、新潟市の共生社会づくりを進めたい組織や人々にその機会を提供する「ともにEntrance」の実行委員長、一般社団法人「I have a dream」理事長として、障がい者就労支援事業、障がい者アートレンタル事業、公園利活用事業など、障がいのある人もない人も安心して暮らせる環境・社会・まちづくりに関わる活動を幅広く行っている。

障がいのある人もない人も、誰もが快適に過ごせるまちづくりを目指し、働く環境、アート、公園などさまざまな切り口で可能性を切りひらく仕掛け人、肥田野正明さん。
社会的価値のあるビジネスの展開と、今後の展望について伺いました。

障がいのある人がいきいきと働ける環境を

肥田野さんが、地域・社会貢献を始めようと思った転機はいつでしたか?

 

肥田野:
私はバウハウスというビルメンテナンスの会社を経営しています。2004年頃、本業の傍らに地域貢献・社会貢献活動をできればいいなという感覚で青年会議所に入ったのですが、ちょうどその頃、社会起業家という言葉や、経済価値と社会価値の両方を作っていく、CSV(共通価値の創造)という言葉が出てきていました。今で言うSDGs的な感じでしょうか。経済だけ追いかけてもだめ、ちゃんと社会も見なきゃいけないと。ですから本業の傍らというより、本業ぐらい本気で考えてやらなくてはいけないし、それにはテーマが必要で、何がいいだろう?と模索していました。

 

それで、障がい者就労事業「I have a dream」を立ち上げたわけですね。

 

肥田野:
そうです。たまたま新潟市のクロスパルに、障がいを持つ人たちがウエス(工業用雑巾)を作るための不要の衣類回収ボックスがあったのを目にしました。今ユニクロさんなどでも当たり前にやっていますよね。そこで、チームを作って福祉事業所に見学に行き、障がいのある人の仕事というものに初めて触れました。施設では他にリサイクルのトイレットペーパーや木工製品などを作る仕事をしていたのですが、その内容と報酬があまり市場とマッチしていないと感じました。そんな時、チームのメンバーに「肥田野さんのところのビルメンテナンスの仕事は?」と言われて、それだったらマッチするかも?と。回り回って自分の本業に戻ってきたというわけです。

 

「I have a dream」ではどんな活動を行っていますか?

 

肥田野:
弊社が提携するオフィスビルやマンションの清掃作業をはじめ、障がいのある人たちが就労訓練をしている福祉事業所と企業との出会いを作るマッチング事業を行っています。現在、障がい者の法定雇用率は6時間以上という規定がありますが、短時間だけ、繁忙期だけなど、人手が必要な時だけ雇用したいという企業さんと、フルタイムでは難しいけど週1日とか23時間だけなら働けるといった人材を仲介する。そういう雇い方・働き方を提案しています。また、去年からアルビレックス新潟さんの「障がい者就労体験プロジェクト」として、月1回ホームゲームの際にビッグスワンでごみ収集活動を行っています。回を重ねるごとにサポーターの人たちにも受け入れられ、障がいのある人たちも元気に挨拶したり、ふれあいの中でコミュニケーションを楽しんだりできるようになってきました。

個性豊かなアート作品で街なかを彩る

「障がい者アートレンタル事業」とはどんなものですか?

 

肥田野:
きっかけは、ある障がい者作家さんの絵画を購入したことです。最初は自分の事務所に飾っていたのですが、絵を見た人がみんなすごく興味を示してくるので、だったら事務所の中ではなく、街の中や企業、お店などに飾ってもらえばいいと思いつきました。これが「まちごと美術館 cotocoto」の始まりです。障がい者のアート作品をストックして、売買ではなく1カ月3,000円でレンタルし、そのうち500円が作家さんの収入になるというシステムです。どの作品も色使いが鮮やかだったり独創的だったりして、非常に好評をいただいています。作品は2カ月に1回変わり、いろいろなアートを楽しむことができます。

 

「障がい者アートレンタル事業」のこれからの展望は?

 

肥田野:
現在の作家数は27名、約120社の企業やお店にレンタルをご利用いただいています。新潟市を中心に、県内各地、ほとんど口コミで広がっています。たくさん流通するほど作家さんたちの収入になるので、どんどん広げていきたいですね。県外からも声がかかっていて、202112月に東京・渋谷区にオープンしたモスバーガー原宿表参道店の1階・2階の壁が、「まちごと美術館」の作家さんによるアート作品になっています。また、コロナになる前には、フランス・ナント市へ行って本事業を提案する予定でした。実現すれば子どもたちの収入にもつながるし、お互いの都市に親しみを感じてもらうこともでき、すごく意味のある国際交流になるのではないかと期待しています。今は時期を見て再計画できればと思っています。

市民が自由に楽しめる公園をもっと増やしたい

公民連携PPP事業「SiP」とは、具体的にどんなものですか?

 

肥田野:
新潟市の補助事業「にいがたカナール彩」という春祭りが、毎年ビッグスワンとスポーツ公園で行われていて、公園の中の人工川で子どもたちにカヌー体験をしてもらっています。毎回すごい人気で、お祭り以外の時期も実施したいのですが、その川は景観であって利用目的ではないので、通常時は使えないことになっています。それを機に、本来公園は市民が自由に楽しめるものでなければと思うようになり、今まで使いにくかった公園をこれからもっと利活用しようという働きかけを「SiP」で行っています。新潟市では信濃川やすらぎ堤や、新潟西港エリアなど、中心部で少しずつ社会実験を行ってきました。

 

「SiP」のこれからのビジョンを教えてください。

 

肥田野:
SiP」とは「サステナブル&インクルーシブデザインプロジェクト」の頭文字。インクルーシブデザインというのは「共生」を意味します。今、東京など都市部の公園は段差をなくすなどユニバーサルデザインで作られていて、障がい者、車椅子の人たちも安心して来られるように変わってきています。新潟のまちづくりでいうとハードの再開発が中心に話し合われていますが、同時にソフトの部分の議論も重要と考えます。一時的なものではなく、ちゃんと街に還元できる賑わいをつくる、つまり持続可能=サステナブルというテーマはますます大切になっています。「SiP」が関わることで公園や街なかがより豊かに、社会的な価値を生む場所になるよう考えていかなければと思っています。

多様性を活かし、人が主役となるまちづくりを目指して

バウハウス代表として、また個人として大切にしている地域貢献への思いは?

 

肥田野:
今の時代、多様性というものを無視して、企業経営や事業活動はできないだろうなと思います。バウハウスはビルメンテナンス業であるとともにソーシャルビジネスカンパニーとして、テーマ性を持って地域と関わってきました。最初は、本業の延長線で考えても変化球は創れないと思っていましたが、結果的に人と人をつなぐ役目となり、そこからいろんな情報を紹介してもらったりして、やっぱりネットワークってすごく大事だなと感じます。誰かの手助けと言うとおこがましいですけど、何か少しでもお手伝いできることがあればうれしいです。

 

明和義人祭に期待すること、メッセージをお願いします。

 

肥田野:
最近、明和義人の物語を読みました。うちの子どもも本を持っていたので、今日いただいたこの本を入れるとわが家で3冊目です。人が集まる広場や街は、そこに住む地域の人々が主役であってほしいと私は思っています。お祭りやイベントに関しても、地域の人たちに親しまれるもの、気がつくといつもあるねという感じがいいなと思うので、地域に根付く明和義人祭が再開し、また街に活気を与えてくれることを願っています。

明和義人祭実行委員より文庫本「新潟樽きぬた」を寄贈させて頂きました。

「明和義人伝~モダンタイムズ~」とは

明和義人に準え、現代で『勇気をもって行動し、自らの手で未来を切り開こうとしている人』にスポットをあて、今までになかったものを始めようと思った原動力や、きっかけ、そして具体的な活動内容を紹介します。新しいことを始めようとしている方の一助となれれば幸いです。